試合に出られなかった日の帰り道。ベンチで終わった子に、車の中で何を言い、何を言わないか
駐車場は、まだにぎやかだった。
「今日のシュート、すごかったなあ」「次、どこでご飯食べる?」
笑い声のあいだを抜けて、ベンチで試合を終えた子が、黙って車に乗り込んだ。
スパイクの袋を足元に置く音だけがして、ドアが閉まる。
エンジンをかけても、しばらくどちらも何も言わない。
先発の発表があったのは、試合の30分前だった。
名前は呼ばれなかった。
アップのときから、なんとなく分かっていたのかもしれない。
ベンチでは水のボトルを並べたり、声を出したりしていたけれど、交代の声は最後までかからなかった。
親のほうが、先に言いたくなる
正直なところ、納得していないのは親も同じだ。
朝早く起きて送っていった。
先週も、その前の週も似たようなものだった。
「今日こそは」という期待が外れるたびに、コーチへの不満が少しずつたまっていく。
帰りの車の中でスマホを握ると、コーチにLINEを送りたくなる。
「うちの子、どうして出られないんでしょうか」と。
でも、その文面を思い浮かべたところで、隣でシートベルトを締める子どもの横顔が見える。
言いたい。
でも、今ここで自分がそれを言ったら、この子はもっと小さくなる気がする。
だから親は黙る。
黙るけれど、黙っていること自体がつらくて、つい関係のない小言が出てしまうこともある。
「今日、ベンチで声、出てなかったんじゃない?」
言った瞬間に、しまったと思う。
子どもは窓の外を向いて、それきり家まで一言もなかった。
うまくいかない日は、普通にあります。
言ってしまった翌日に「昨日は言いすぎた、ごめん」と言えたら、それで取り返しがつくこともあります。
最初の一言が、どうしても出てこない日
帰り道のセオリーとして「まずは普通の声かけを」とよく言われます。
お疲れさま、寒かったね、お腹空いてない?
確かにそれで十分です。
でも、実際は親のほうも気持ちの整理がついていなくて、普通の一言すらぎこちなくなる。
無理に明るく振る舞うと、子どもにはすぐ分かります。
だから、コンビニに寄る、というのは悪くない方法です。
「肉まん買っていくか」
「……うん」
会話はそれだけ。
温かい袋を持って、また車に乗る。
それ以上、今日の試合の話は出なかった、という日もあって、それはそれで終わりでいいのだと思います。
何かを言わなければ、と親が力むほど、車の中は狭くなります。
「もう辞めたい」が、突然出てくることもある
もうひとつ、身構えてしまう場面があります。
信号待ちで、ぽつりと「もう、サッカー辞めたい」。
ドキッとします。
本気なのか、その日の悔しさがそう言わせただけなのか、その場では分からない。
すぐに「そんなこと言うな」と止めるのも、「辞めていいよ」と言うのも、どちらも早すぎる気がして、言葉に詰まる。
結局出てくるのは、「そっか」くらいです。
それで足りないのかもしれませんが、その日のうちに結論まで持っていこうとしないほうが、あとで話せる余地は残ります。
翌日、朝ごはんのときに何事もなくスパイクを磨いていた、ということもあります。
逆に、何日たっても同じことを言うなら、それはそのとき、ちゃんと聞く話です。
短い出場だった日は、意外とややこしい
1分も出られなかった日は分かりやすい。
でも、後半の残り5分だけ出て、ボールにほとんど触れないまま終わった日は、子どもも親も、気持ちの置き場に困ります。
「出られたじゃないか」と言えば、「あれで出たうちに入るの?」と返ってくる。
「もっとやれたのに」と言えば、やれなかった本人が一番分かっている。
こういう日は、評価らしい評価をしないほうが無難です。
子どものほうから「一回だけ、左に開いたんだよ」と話し出したら、それを聞く。
「そういえば見てたよ」と言える場面がひとつでもあると、5分が5分として残ります。
出場時間が短い日ほど、親が見ていた具体的な場面がひとつあるかどうかで、帰り道の重さはだいぶ変わります。
コーチに聞きたい気持ちは、夜のうちは寝かせる
出場が続かない日が何週も続くと、話は声かけだけでは済まなくなります。
親としてコーチに確認したい。
それ自体は、間違ったことではないと思います。
ただ、試合の夜に送る連絡は、たいてい少し熱くなります。
ひとつ言えるのは、夜書いた文面は送らずに一晩置くこと。
そして、聞くときは不満ではなく事実から入ることです。
「最近、出場時間が短くなっていて、本人も気にしています。
本人が次に意識するとよいことがあれば教えていただけますか」
角の立たない言い方を選んでも、思ったような答えが返ってこないことはあります。
そして、どうしても環境が合わないのなら、チームを変えるという話を家庭ですることもあります。
それを「逃げ」と決める必要はないでしょう。
ただ、子どもの「まだここでやりたい」の一言で、話が止まる家庭も多いはずです。
次の週も、出られるかは分からない
こう書いてきましたが、帰り道の乗り越え方に、毎回効く決め手があるわけではありません。
次の週もベンチかもしれない。
家に帰って、夕ごはんを食べて、翌日また練習に行く。
それを繰り返すあいだに、ふっと出場が増える子もいれば、環境を変えて表情が変わる子もいます。
いい言葉が出てこない日は、コンビニに寄って肉まんを買う。
それくらいで、案外、十分なのかもしれません。
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